板尾創路の脱獄王とエッセンシャルキリング

「エッセンシャルキリング」を、色んなものが被っている「板尾創路の脱獄王」と比べながら観た。
  

あまりこういう観賞の仕方は良くないとは思うが、前回「しんぼる」と「127時間」で同様の観かたをして、互いにより深く鑑賞できたと感じた。
今回もそれにならって感想書こうと思う。


以下はネタバレになるので、「板尾創路の脱獄王」と「エッセンシャルキリング」を観てから読んでください。



まず両映画の共通テーマは大きな括りでいえば「逃亡」である。
「逃亡」の目的はこれまた大きな括りでは「家族」に会う為。
その「家族」へ向かい「逃亡」する主人公には言葉(セリフ)は必要ない。
「家族」への「逃亡」は「本能」であるから。


片や本能的に脱獄を繰り返し。


片や本能的に人を殺しながら(女子供を除く)、飢えをしのぐ為、蟻や木の皮、生魚を食らい、果ては子連れの母親の乳まで吸う。



それらの行為は互いに主人公にとってエッセンシャル(本質的・必要不可欠)なものであるから。



・シチュエーション

板尾創路の脱獄王

主人公鈴木雅之は無銭飲食で捕まった後、拘置所で2度脱獄を繰り返し刑務所に入れられる。
刑務所でも脱獄を繰り返し、その事によりどんどん罪も重くなり、刑務所からも脱獄が難しくなっていくがそれでも脱獄を繰り返す。


エッセンシャルキリング

主人公ムハンマドはアラブ人兵士で、アフガニスタンで一度米兵に捕まる。収容所に送られるが、一言も口をきかないムハンマドは拷問される。その後軍用機で別の場所へ移送され、雪山を護送車で移送中に事故で車が崖から転落する。その事故に乗じてムハンマドは極寒の中、逃亡する。
極寒の中を兵士達に追いかけられながら、故郷に向かう。


・一言のセリフも無しに演じきる才能

これら2つの映画の目玉はセリフ抜きで主人公を演じきった、両俳優だろう。

板尾創路

一個もセリフ無しで、その表情のみで演じきる。
板尾創路の脱獄王」では、他の映画で観れない長髪で髭面のちょっとワイルドな板尾さん。
芸人故にコミカルな役が多いが、このような演技もできる。
前にも書いたが、ここ2、3年位でどんどん演技が上手くなっている。
「空気人形」「蘇りの血」「武士道シックスティーン」「さや侍」と最近出演した映画はとても良い。
もっと色んな「板尾創路」を映画で観たいものである。


ヴィンセントギャロ

前回監督したブラウンバニーの評判が散々だったからかは知らないが、最近あまり見かけなかった。(ジョンフルシアンテが参加しているサントラは良い)
この役にヴィンセントギャロを選ぶとはいいセンスである。
今回ヴィンセントギャロは珍しく体を張っている。
体を張るだけの映画だったという訳だろう。
こういうセリフ無しで延々と演じきれる役者は、海外でもそんなにいない。


男前で個性的。スターというには少し違う。独自な表情、存在感が二人にはある。


・共通点

囚人服の色、看守からの虐待、戦争の影

この中で一番個人的に気になっているのは囚人服の色の一致である。
エッセンシャルキリングはいいとして、なぜ板尾創路の脱獄王は囚人服の色としてオレンジを選んだのか。囚人服はオレンジの他に青も存在するが、これらは海外映画を意識してなのか。

※後日追記
昔の日本の囚人服はオレンジだったようで、俺の勉強不足でした。映画の修羅雪姫(梶芽衣子主演版)を観て気づきました。


・ヒロイン


予告だけではなく、本編でも上手いこと挿入できてれば

板尾創路の脱獄王ではヒロインは予告編のみ存在する。
これはこれで面白いのだが、本編でも観たかった。
まあ、男の映画という言い方もでき、その分國村準がビシッと締めているのだが。


ヒロイン?

雪の中、家にいきなり現れたムハンマドを一晩看病してあげた、口が聞けない女性。
恋愛に発展するかと思いきや、女性は翌日ムハンマドに立ち去る事を即す。
ムハンマドはもう少し居たい、と感じさせるいじらしい表情を浮べるが、逆らわず女性からもらった白馬に乗って家を後にする。


・エンディングと総括

両映画のエンディングについての詳細はここでは書かないが、両方とも「目的」は成功していない。あるいは成功していないと推測される。
エンディングの描き方は違うが、それぞれ「らしさ」が出ている。

先日テレビでフェルメールについて話していたのだが、そこでフェルメールの絵は余計な物を削ぎ落として描かれる「引き算」での表現と言っていた。まさしくこの両映画は「引き算」で表現がされている。

余計な物を削ぎ落としてエッセンシャルな物で、両主人公のエッセンシャルな行動、行為を表現した映画。

最後に。
板尾さんに関しては最新映画の「月光ノ仮面」がモントリオール映画際に出品するという事だが、沖縄映画祭の状態から修正を加えているのだろうか?前にも書いたが、個人的な感想として最後の落ちに向けてのシーンが足りていないと思っている。しかし決して駄作ではないので、どうにか修正されていて欲しいものである。
あと、ヴィンセントギャロについても「Promises Written in Water」という最新映画があるらしい。ヴィンセントギャロの映画についてはもちろん内容も楽しみなのであるが、前回の映画といい、今回も「えっこんな美人女優が脱ぐの?」というシーンがありそうである。これもヴィンセントギャロの才能なのか。

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